悩みの種から花が咲く 7月
From the seeds of sorrow bloom the flowers of maturity.

昭和を代表する日本画家、東山魁夷画伯。鮮やかに彩られた風景画の数々は、見る者を圧倒する美しさと迫力に満ちています。画伯が本格的に風景画を描きはじめたのは、ある出来事がきっかけでした。
若いころの画伯は、仲間の画家たちが次々と世に出ていく中、自分の絵だけが全く評価されず、苦悩の日々を送っていたそうです。そのさなか父を失い、終戦近くには召集を受け、爆弾を持って戦車に突撃する訓練に明け暮れるという、まさに死と隣り合わせの絶望の中にいました。
そんなとき、軍の命令で熊本城に行き、天守閣から景色を見たとき、普段であれば気にも留めないであろう風景に「生命の輝き」を感じ、その美しさに涙を流すほど衝撃を受けたといいます。そして、「もし再び絵筆を取れる日が来たら、この感動を、いまの気持ちで描こう」と誓ったそうです。
終戦の2年後、日本美術展覧会に出品した作品は特選に選ばれ、東山魁夷の名は広く知られるようになりました。苦しみ、絶望のどん底から、「自然のほんとうの美しさ」を見いだし、強い信念とたゆまぬ努力の末、見事にその才能を開花させたのです。
浄土宗を開かれた法然上人もまた、苦悩に満ちた若き日々を送られました。比叡山で厳しい修行を積まれていた上人は、学識の広さ、徳の高さから「智慧第一」と讃えられました。
しかし、さとりを求めてひたすら仏道修行に励むほど、さとりを得るには到底及ばない自身の愚かさ、罪深さを痛感します。誰もが認める尊い修行者であったからこそ、その苦悩と絶望は、私たちの想像を絶するほどの深さであったことでしょう。
上人は、こんな自分でも救われる道はないものかと探し求め、お釈迦さまの説かれた膨大なみ教えから、ひたすらお念仏をおとなえすることで阿弥陀如来のお導きをうけ、極楽浄土に往生させていただくという、すべての人が救われる道を見いだされたのです。
上人はご自身の苦悩の種から、「すべての人が救われるお念仏のみ教え」という花を咲かせてくださいました。このみ教えは現在も大輪の花を咲かせ続けています。
私たちの人生にも大小の差こそあれ、様々な苦悩の種があります。しかし阿弥陀如来のお導きにより、それがお浄土への往生という花を咲かせ実を結ぶことを信じ、ともども日々しっかりとお念仏をおとなえしてまいりましょう。
(青森県弘前市 貞昌寺 赤平明導)